「何か楽しいと思うことをされると良いですよ」と医師から告げられたが、その頃の自分は、まだ何もない空っぽだった。
2024年の12月。心が壊れてしまった。
積もり積もっていた感情がコントロールできなくなり、会社に着いて上司の顔を見た瞬間に、呼吸をすることができないほど体がいうことをきかなくなって崩れてしまった。自分を保つことができなくなる体験は初めてだった。
その上司はそれまでにも相談に乗ってくれていたのだが、どうしても自分の中で受け入れられない人がいて、その人とうまくやれないことを伝えて解決策を一緒に考えてくれたのだが、やはり自分には超えられない状況に陥ってしまっていた。その日はその人と顔を合わさないように仕事をして帰宅したのだが、これからどれだけ続くのかを考えると、結局一睡もできなかった。
翌日、会社に行こうと思ったが、足が震えて動けなくなってしまった。寝不足が原因かな?とも思ったのだが、何もする気が起きなくなり、気がつけば出社に間に合わない時間になっていたので、今日は休ませてほしい旨の連絡を入れた。こんな休み方は初めてだったので、自分の弱さが自分で受け入れられなかった。
それでも、ただ時間だけが過ぎて、また明日の朝、こんな気持ちになるのかなと思うと耐えられないと思い、すがるように近くの病院へ行ってみたら、心が壊れているねと言われ、診断書が出た。
その診断書を持ち、会社に行ったのだが、足が震えて何かに捕まっていないと立っていられない状態だった。それでも以前に上司だった方を見つけ、診断書を出された経過や医師との話を伝えると「今は心を休めるときだから、ゆっくりと休んで」という暖かい言葉をかけられ、また涙が止まらなくなってしまった。
その翌日からは、ただ時間が過ぎてゆくだけで、今から振り返ると何の記憶も無い。自宅と病院を定期的にゆくだけの生活になり、時には家から…ベッドからすら出られない日もあったり、食欲もなく、iPhoneをずっと見つめて1日が終わるだけとか、サブスクを観るでもなくただ垂れ流していただけの日もあった。
時折、そんな状態を見かねた友達から「ちょっとプログラム組んで」とWordPressのプラグインを作るような事を頼まれたりもして、気が向いたときに時々キーボードをたたくようになっていったが、やる気みたいなものはどこにもなかった。
そんな状態で年を越し、春が訪れた頃に、通院をしている病院の医師から「何か楽しいと思うことをされると良いですよ」と言われた。「今までどんな趣味があったんですか?」と聞かれ、カラオケやプログラミングとかですかね、と答えると、「それを楽しい、やりたいと思えるようになるまでは、焦らずにゆっくりしましょう」と言われ、以前の自分が楽しいと思っていたことが今の自分には楽しいと思えていない事実を自己認識した瞬間だった。
それでも「気分転換に散歩などもいいですよ。午前中に太陽を浴びるのは体にも良いですし」とアドバイスをされていたので、少しだけ外に出てみようと思い、京都水族館*1にペンギンやイルカを見に行ったり、近くのカフェなどで外食をするようにもなっていた。
とはいえ、休職中のため無駄にできるお金は1円もない。なので必然的に自分が持っている株主優待が使える京都ISETANで食事をしたり、イオンモールのそじ坊やバーミヤン、マクドナルドなどに出かけてお腹を満たしていた。
春の暖かい陽気の中、少しでも家から出る事で気分転換になった。そして運動にもなった。外食をする事で食欲も少しずつ戻ってきて、体と心が少しずつコントロールできるようになってきていた。
休職をするにあたって、会社の仲の良い人達にも理由を伝えなかったため、時折心配をして食事や遊びに誘われることもあったが、事前に約束をしていても今日はダメな日だ…って時には断ることもあった。それでも根気強くご飯やカラオケに誘ってくれる人もいて、自分は本当に恵まれているなと再確認。
そして季節はあっという間に夏へと変わり、散歩に出かけるにも暑くて億劫になり始めていた。そんな中、家に閉じこもるのはだめだと友達からキャンプに誘われたり、ここ数年間はお盆中にお墓参りにいけていなかったので久々に帰郷したりと、今までは仕事でできていなかった事を体験して、「ああ、こういうのが楽しいって言うんだな」と、楽しむ事を徐々に受け入れられるようになってきていた。
日常が徐々に戻りつつあったある日、今日もペンギンを見た後に、どこかで食事でもしようかなと、株主優待の入っている財布を眺めながら、「この優待、ほかに使える店が近くにないのかな」と考えていた時、自分の中に1つの「楽しいと思えること」の種を見つけたのでした。
優待くらし、そして自分が動き出すきっかけになったのでした。
※1 京都水族館は、オリックスの株主優待で年間パスポートをもらっていたので、無料で通っていました